大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成8年(ワ)19079号 判決 1998年3月25日

原告・両反訴事件被告 株式会社第一勧業銀行

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 関口保太郎

同 脇田眞憲

被告 一九〇七九号反訴原告 洛東貿易株式会社

右代表者代表取締役 Y1

被告 二一五七七号反訴原告 Y1

被告 Y2

被告 Y3

被告 Y4

〔以下、原告・両反訴事件被告を「原告」と、被告・一九〇七九号反訴原告を「被告会社」と、被告・二一五七七号反訴原告を「被告Y1」と、被告Y2を「被告Y2」と、被告Y3を「被告Y3」と、被告Y4を「被告Y4」と表示する。〕

主文

一  被告会社、被告Y1及び被告Y2は、各自、原告に対し、金二〇三八万三六三七円及びこれに対する平成九年七月二六日から支払済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告会社、被告Y1及び被告Y2は、各自、原告に対し、金一一九万三六〇七円を支払え。

三  原告の被告会社、被告Y1及び被告Y2に対するその余の請求並びに被告Y3及び被告Y4に対する請求をいずれも棄却する。

四  被告会社及び被告Y1の反訴請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、全事件を通じ、原告と被告会社との間においては、原告に生じた費用の三分の二を被告会社の、被告会社に生じた費用の四分の一を原告の各負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告Y1との間においては、原告に生じた費用の七分の二を被告Y1の、被告Y1に生じた費用の七分の三を原告の各負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告Y2との間においては、原告に生じた費用の一〇分の二を被告Y2の、被告Y2に生じた費用の二分の一を原告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告Y3及び被告Y4との間においては、全部原告の負担とする。

六  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  本訴

1  被告会社、被告Y1及び被告Y2は、各自、原告に対し、金二〇三八万三六三七円及びこれに対する平成九年七月二六日から支払済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

2  被告らは、各自、原告に対し、金一一九万三六〇七円を支払え。

3  被告会社、被告Y1及び被告Y2は、各自、原告に対し、金七五五〇万二五七四円及びうち金七二八〇万円に対する平成三年一月一日から支払済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  一九〇七九号反訴

原告は、被告会社に対し、金一億八一二八万一三〇八円及び平成八年八月一六日から右金員の支払済まで一日金一〇万五一五一円の割合による金員を支払え。

三  二一五七七号反訴

原告は、被告Y1に対し、金三〇六五万円及び平成八年八月一六日から右金員の支払済まで一日金三万六三六九円の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提事実(原告と被告会社及び被告Y1との間においては争いがなく、原告とその余の関係被告との間においては、【 】内に掲記した証拠により認められる。なお、被告本人兼被告会社代表者Y1を「被告Y1本人」と表示する。)

1  原告は、昭和六一年七月二日、被告会社(当時の商号「堀川株式会社」)との間で、手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、外国為替取引等に関し、左の約定を含む銀行取引契約(以下「本件基本契約」という。)を締結した【甲一の1、被告Y1本人】。

(一) 遅延損害金 年一四パーセント

(二) 期限の利益喪失 被告会社は、原告に対する債務の履行を遅滞した場合、原告の請求により期限の利益を失う。

2  被告Y1は、昭和六一年七月二日、原告に対し、被告会社が本件基本契約に基づく原告との取引により負担する債務について連帯保証する旨約した。

3(一)  原告は、昭和六三年一二月一二日、本件基本契約に基づき、被告会社に対し、六〇〇〇万円を左の約定で貸し渡した【甲三、被告Y1本人】。

(1) 弁済方法 昭和六四年一月から昭和七三年一二月までの毎月一二日に各五〇万円

(2) 利息 年五・七パーセントの割合とし、毎月一二日に一か月分を前払する。

(二)  被告会社は、右債務につき、平成二年一一月一二日以降の支払を怠った。

(三)  原告は、被告会社に対し、平成七年七月二八日に到達した書面により、右(一)の貸金残元金四九〇〇万円を直ちに支払うよう請求した【甲七、八の各1、2】。

なお、原告は、平成九年七月二五日、競売手続において六一三五万四一七八円の配当を受け、これを同日までの利息及び遅延損害金並びに元金のうち二八六一万六三六三円に充当し、この結果、貸金残元金は、二〇三八万三六三七円となった。

4(一)  原告は、平成二年三月一六日、本件基本契約に基づき、被告会社との間で、左の約定による当座貸越契約(以下「本件当座貸越契約」という。)を締結し、同日、被告会社に対し、一〇〇〇万円を貸し渡した【甲四の1、2、弁論の全趣旨】。

(1) 限度額 一〇〇〇万円

(2) 利息 年七・一パーセント

(3) 弁済期 平成四年三月一六日

(二)  原告は、平成五年五月二一日、前項の貸金につき、保証人である東京信用保証協会から元金一〇〇〇万円と利息三〇万五四七七円の弁済を受け、この結果、未払利息は一一九万三六〇七円となった【甲四の2、3、甲一一】。

5(一)  原告は、昭和六一年八月一九日、本件基本契約に基づき、被告会社との間で、左の約定を含む外国向為替手形取引契約(以下「本件為替取引契約」という。)を締結した【甲五、被告Y1本人】。

(1) 適用範囲 信用状付外国向為替手形の買取り等

(2) 買戻債務 被告会社が原告から外国向為替手形の買取りを受けた後、当該手形の支払義務者による支払、引受け又は債務の確認が拒絶された場合、被告会社は、当然に手形面記載の金額による買戻義務を負い、原告に対し、右金額及び原告が手形の受戻しに要した費用を直ちに支払う。

(二)  原告は、平成二年八月三日、本件為替取引契約に基づき、被告から別紙手形目録記載の信用状付為替手形(以下「本件手形」という。)を買い取り、代金七二八〇万円を被告会社に支払った【甲六の1、甲九、証人B】。

(三)  原告は、平成二年八月三日、株式会社三菱銀行(現・株式会社東京三菱銀行。以下「三菱銀行」という。)から七二八〇万円で本件手形の割引を受けた【甲六の4、甲九、証人B】。

(四)  本件手形についての信用状(以下「本件信用状」という。)の発行銀行であるCREDIT LYONNAIS SEOUL(以下「CLS」という。)は、平成二年八月一四日ころ、三菱銀行に対し、本件信用状と船荷証券、送り状及び梱包明細書との間に、信用状発行依頼者の住所及び名称の記載の不一致があることを理由に、本件手形の支払を拒絶する旨の通知をし、このため、三菱銀行は、同年九月、原告に対し、本件手形の買戻しを請求した【甲六の3、甲九、証人B】。

そこで、原告は、平成二年一二月三一日、三菱銀行に対し本件手形額面金額七二八〇万円及びこれに対する利息二七〇万二五七四円の合計額である七五五〇万二五七四円を支払って本件手形を買い戻した【甲六の5、6、甲九】。

(五)  原告は、被告会社に対し、平成七年七月二八日に到達した書面により、本件手形買戻債務の履行を請求した【甲七、八の各1、2】。

二  争点

1  本訴について

(一) 被告Y2が昭和六一年七月二日に本件基本契約に基づく取引による被告会社の原告に対する債務を連帯保証したか

(二) 被告Y3及び被告Y4が平成二年三月一六日に本件当座貸越契約に基づく被告会社の原告に対する債務を連帯保証したか

2  本訴及び各反訴について

(一) 原告が被告会社から信用状付の本件手形を買い取るに当たり、送り状等の書類を原告の責任で点検することを約したか

CLSによる本件手形の支払拒絶は右点検義務違反によるものであり、原告は、被告会社に対し本件手形の買戻しを請求することはできず、右支払拒絶により被告会社及び被告Y1に生じた損害を賠償する義務を負うか

(二) CLSによる本件手形の支払拒絶により被告会社及び被告Y1に生じた損害

〔被告会社、被告Y1及び被告Y2の主張〕

(1) CLSによる本件手形の支払拒絶により、被告会社は平成二年八月一六日、実質上倒産した。

(2) 被告会社は、平成元年度において三八三八万〇二一八円の売上総利益を上げていたが、右倒産により平成八年八月一六日までの六年間に右利益の六年分である二億三〇二八万一三〇八円の利益を得ることができず、その後も一日につき一〇万五一五一円の利益を逸失している。

被告会社の右損害は、原告の前記(一)の債務不履行によるものである。

被告会社は、平成九年七月八日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、右損害賠償請求権と原告の前提事実3の貸金債権四九〇〇万円とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(3) 被告Y1は、被告会社の代表取締役として、被告会社から平成二年一月一日から同年八月一五日までの間に八八五万円の役員報酬を得ていたが、被告会社の右倒産により平成八年八月一六日までの六年間に右報酬額を年額に換算した一三二七万五〇〇〇円の六年分である七九六五万円の報酬を得ることができず、その後も一日につき三万六三六九円の報酬相当額を逸失している。

原告の前記(一)の被告会社に対する債務不履行は、被告会社の代表取締役である被告Y1に対する不法行為であり、被告Y1の右損害は、これにより生じたものである。

被告Y1は、平成八年一一月一一日の本件口頭弁論期日において、原告に対し、右損害賠償請求権と原告の前提事実3の貸金債権四九〇〇万円とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

三  証拠

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりである。

第三争点に対する判断

一  被告Y2の連帯保証について

原告と被告Y2との間において成立に争いのない甲二号証の2(保証約定書)によれば、被告Y2が、昭和六一年七月二日、本件基本契約に基づく取引により被告会社が原告に対し負担する債務につき、連帯保証する旨約したことが認められる。

二  被告Y3及び被告Y4の連帯保証について

甲四号証の1(当座勘定貸越約定書)には、被告Y3と被告Y4が、平成二年三月一六日、本件当座貸越契約に基づく取引により被告会社が原告に対し負担する債務につき、それぞれ連帯保証することを約する旨の記載があり、同号証の被告Y3及び被告Y4の各名下の印影が、それぞれ本人の印章によって顕出されたものであることについては、原告と右各被告との間において争いがない。

しかしながら、被告Y1本人の尋問の結果によれば、甲四号証の1の被告Y3及び被告Y4名義の各署名は、いずれも被告Y1がその従業員にさせたものであり、各名下の印影は、被告Y1が同人の妻であった被告Y3及び母である被告Y4の各実印をいずれも無断で押捺したものであること、そして、被告Y1は、本件当座貸越契約についての保証につき、被告Y3及び被告Y4に全く説明をしていないことが認められ、右事実に照らせば、甲四号証の1の被告Y3及び被告Y4の各名下の印影が各本人の印章によるものであからといって、右印影が右被告両名の意思に基づき顕出されたものであると推認することはできない。

他に甲四号証の1の被告Y3及び被告Y4作成部分の真正、さらには右被告両名の前記連帯保証の事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、原告の被告Y3及び被告Y4に対する請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がない。

三  原告の書類点検義務-CLSによる本件手形の支払拒絶に対する責任について

1  <証拠省略>、証人Bの証言、被告Y1本人の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば次の事実を認めることができる。

(一) 被告会社は、各種商品の輸出入業を営んでいたことから、輸出代金の回収のために銀行から外国向け為替手形の買取りを受けており、原告の麹町支店との間においても前提事実5(一)のとおり昭和六一年八月一九日に本件為替取引契約を締結したが、そのころ、本店を東京都千代田区<以下省略>から港区<以下省略>に移転したこともあって、外国為替手形取引を含む銀行取引は、三菱銀行内幸町支店(現・新橋支店)との間のものが中心となり、平成二年当時、被告会社が原告に買取りを依頼する為替手形は、比較的小額のものにとどまっていた。

(二) このような中で、平成二年五月、原告の麹町支店外国課のCが被告会社を訪れ、被告会社の代表者である被告Y1に対し、原告との間の取引の専用端末機「便利くんミニ」の利用を勧誘したが、その際、Cは、被告会社が韓国の輸入業者との間で商談を進めていた中古銅の取引に関し、韓国から被告会社に届いていた信用状(L/C)開設のテレックスを目にし、その金額が高額であったため、右取引にかかる外国向為替手形の買取りを是非原告の麹町支店で行いたいと申し入れた。しかし、被告Y1は、右為替手形については、前記のとおり被告会社との取引が拡大しており、信用状を発行するCLSのコルレス契約先でもある三菱銀行において買取りを受ける予定であったため、当日は右申し入れを断った。

ところが、被告Y1が平成二年五月二二日ころ前記専用端末機の利用申込みのため原告の麹町支店を訪れたところ、同支店の課長であるBから、再び前記取引についての為替手形の買取りの申入れを受け、原告が買取りをできるのであれば、原告において船荷証券、送り状、梱包明細書等の書類の点検を行うとの申し出も受けた。そこで、被告Y1は、いったん、被告会社に戻った後、Bに電話をし、前記取引についての為替手形の買取りを原告に依頼する旨連絡した。

(三) そして、被告会社は、平成二年七月末ころ、韓国に輸出する中古銅につき船荷証券、送り状、梱包明細書等を準備して、CLSが発行した本件信用状とともに原告麹町支店に持ち込み、Bの点検を受け、二、三度同人の指示に従い右各書類の書直しをした後、最終的な了解を得て、前提事実5(二)のとおり、原告から本件手形の買取りを受けた。

(四) 三菱銀行から本件手形の呈示を受けたCLSは、前提事実5(一)のとおり本件手形の支払を拒絶したが、その理由とする本件信用状と船荷証券等との間の記載の不一致の具体的内容は、本件信用状における発行依頼者の表示は「KOREA TRADING INT'L INC.」であるのに対し、船荷証券及び梱包明細書の通知人(Notify Party)の記載がそれぞれ「KOREA TRADING INTERNATI-ONAL INC.」と、送り状の買受人の記載が「KOREA TRADE INTERNA-TIONAL INC.」となっており、また、梱包明細書の通知人の住所の記載中「KANGNUM-KU」となるべきところが、「KANNAM-KU」となっているというものである(甲六の3によれば、輸出品についての記載の不一致も理由とされたことが窺われるが、その内容を詳らかにする証拠はない。)。

(五) 右のとおり記載の不一致とされたもののうち、「INT'L」を「INTER-NATIONAL」と記載したのは、Bの指示に基づき当初の記載を訂正したものであり、「TRADING」が「TRADE」となったのは、Bの指示に基づき送り状を作成し直した際、被告会社において書き誤ったものであり、「KANGNUM-KU」が、「KANNAM-KU」となったのは、当初からの書き誤りに、被告会社もBも気づかなかったものである。

2  以上のとおりであるところ、右(五)の認定に対し、証人Bは、「INT'L」を「INTERNATIONAL」に訂正するよう被告会社に指示したことはない旨供述する。しかしながら、同証人も書類の書直しを二、三度指示したこと自体は認めていること、及び、同証人の供述中には訂正を指示した部分とCLSが指摘する不一致部分が同じかどうかは分からないという部分もあり、供述が必ずしも一貫していないことに加え、被告Y1本人の尋問結果にも照らすと、右訂正の指示を否定する証人Bの証言は採用できない。

3  前記1で認定のとおり、原告麹町支店の課長であったBは、被告会社を強く勧誘して本件手形を買い取り、その際、本件手形についての船荷証券、送り状、梱包明細書等の書類を自ら点検する旨を被告会社に約し、現にこれを実行したことが認められるが、他方、甲五号証によれば、原告と被告会社との間の本件為替取引契約において、被告会社は、原告に提出する外国向為替手形及び付属書類が正確、真正かつ有効であり、信用状付取引の場合は信用状条件と一致していることを保障し、これを前提として取り扱ったことにより生じた損害を負担する旨を約していることが認められ(この約定が憲法違反である旨の被告会社らの主張は採用しない。)、また、顧客から信用状付外国向為替手形を買い取る銀行が、不渡事故等を避けるため、自らの立場で手形の付属書類等を点検するのは当然のことであるから、前記Bの言動から、原告が被告会社に対し、本件手形の付属書類の点検につき、事実上の協力をすべき道義上の関係を超えて、それに過誤であった場合に債務不履行責任を生じさせるような法的義務を負ったものとまでいうことはできない。

したがって、右義務を前提とする被告会社の一九〇七九号反訴請求及び被告Y1の二一五七七号反訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がない。

4  しかしながら、他方、前記1の(四)及び(五)のとおり、CLSの本件手形の支払拒絶の理由とされた書類上の記載の不一致は、些細なものではあるが、原告のBによって二、三回にわたり点検を受けた後に生じたものであり、しかも、「INT'L」と「INTERNATIONAL」の不一致は、単に看過されたものではなく、Bの指示により生じたものである。右の点に、当初CLSのコルレス先である三菱銀行において本件手形の買取りを受ける予定であった被告会社が、結局、原告からその買取りを受けたのは、付属書類の点検を積極的に申し出たBの強い勧誘によるものであることを併せ考えると、原告が、信用状を発行したCLSが本件手形の支払を拒絶したことを理由に、被告会社に対し、前提事実5(一)(2)の約定に基づく本件手形の買戻債務の履行を求めることは、信義則上、許されないというべきである。

したがって、原告の被告会社、被告Y1及び被告Y2に対する請求のうち、本件手形の買戻債務の履行を求める部分(本訴請求の3項)は理由がない。

第四結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木健太)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例